経営者特集

株式会社ミラクルエッグ代表取締役 近藤順子さん

「“誰のために”を決めたとき、すべてが動き出した」

—— 卵ではなく、物語を届ける会社へ

どんな仕事にも、始まりがある。
それは、世の中に必要とされていたからかもしれないし、偶然のような出会いが導いたのかもしれない。
けれど、“本当に意味のあるスタート”は、そこからどう磨いたかで決まるのだと思う。

近藤社長が、自社の方向性を定めたきっかけも、
どこか劇的というより、静かで、けれど確かな“気づき”からだった。

「最初は、ごく一般的な卵の卸業だったんです。
でも、経営の勉強を重ねるうちに、ふと考えたんです。
——うちの“強み”って、なんだろう?と

そうしてじっくり取引先を見直してみたとき、驚くような偏りが見えてきた。
それが、「洋菓子屋さんばかりだった」という事実だった。

「これは、たまたまじゃない」
そう確信した瞬間、近藤社長の中でひとつの選択肢が、自然に浮かび上がってきた。

「卵屋という位置づけから、“お菓子専用の卵”をつくる会社になろう」

それは、単なる業態の変更ではなかった。
長年、パティシエや職人たちのすぐそばで、その“作り手の息づかい”に寄り添ってきたからこそ見えた、自分たちだけの立ち位置だった。

「もっとコクがほしい」「焼いたときの色味が…」
そんな細やかな要望に応えながら、ただ卵を届けるのではなく、
その先にある“作品づくり”を支えていたのだ。

だからこそ、届ける卵もまた、商品ではなく“物語の一部”でありたかった。

誰に届けたいかが決まったとき、何をすればいいかも、自然と見えてきました

効率より信頼を。
拡大より密度を。
そんな選択を重ねていく中で、近藤社長は卵の先に“人の手のぬくもり”を見つめる商いへと、舵を切っていった。

ショーケースに並ぶケーキたち。
その美しさの裏に、そっと息づく卵の力。
——それが、近藤社長にとっての“ものづくり”なのかもしれない。


「“お菓子が主役”だからこそ、卵はそっと引き立てる存在でありたい」

—— 目立たないところに宿る、近藤社長の“プロとしての誠実なこだわり”

「卵は、脇役なんです」
そう静かに語る近藤社長の表情には、確かな自負がにじんでいた。

彼女が手がけているのは、“お菓子専用の卵”。
単なる原材料としてではなく、“作品”を引き立てるために生まれた卵だ。

「色や香り、そして何より“生臭み”が出ないよう、細心の注意を払っています。
お菓子の繊細な風味を邪魔しない。むしろ、引き立てるためにある——
そんな存在になれたらと考えています」

目立たず、主張しすぎず、
それでいて確かに“違い”を生み出す存在でありたい。
その想いは、卵の生産過程のひとつひとつに宿っている。

たとえば——
一般的に使われるホルモン剤や抗生物質。
着色のために与えられる飼料由来の添加物。

「どれも私たちは一切使っていません。
黄身の色合いも、すべて天然。
“お菓子にふさわしい卵”として、丁寧に向き合ってつくっています」

ただのこだわりではない。
お客様の“信用”という目に見えない価値に対して、誠実でありたいという、静かな信念だ。

そしてその誠実さは、品質にとどまらない。

「今、お菓子業界の皆さんも大変なんです。
原材料費の高騰、人手不足、後継者不足……
その“構造的な苦しさ”に、少しでも力になれたらと考えていて」

近藤社長は、自社のチームメンバー全員に“経営”を学ぶ機会を与えているという。

「お客様の悩みを“経営視点”で捉えられるようになれば、
本当の意味で“お菓子づくりを支える存在”になれると思うんです」

商品を届けるだけではなく、
現場の心に寄り添い、経営の課題にも伴走する。

近藤社長の「期待以上を叶える力」は、
見えない部分にこそ、そっと注がれているのかもしれない。


「“この卵が届かないなら、お店を閉めます”」

—— 想いに応える商品だからこそ、生まれる“信頼の奇跡”

その言葉を聞いたとき、近藤社長は思わず涙がこぼれたという。

「この卵が使えないなら、お店は開けません」

それは、ある有名なパティシエが実際に語った言葉。
コロナ禍と鳥インフルエンザの影響が重なり、卵の供給が全国的に不安定となったある時期——
近藤社長のもとでも、生産が一時的に追いつかず、「日光金乃卵」の出荷ができなくなる事態が起きた。

代替品を使えば、営業を続けることもできた。
けれど、そのシェフはあえて、店を“閉める”という選択をした。

「この卵じゃなきゃ、意味がないんです」
「お客様には事情をきちんとお伝えして、今日は店を開けません」

そして、店頭に立ち、自らチラシとお詫びのクッキーを手渡しながら、
訪れたお客様ひとりひとりに、“なぜ開けないのか”を丁寧に説明していたという。

「それを聞いたとき、本当に…ありがたくて。
商品って、ここまで誰かの人生に深く関われるんだって。
“選んでくださっている”ということが、こんなにも尊いことなんだって、あらためて思いました」

日光金乃卵。
それは、ただの卵ではない。
パティシエたちの“信念”を託せる卵。
“味”や“色”ではなく、“誇り”に関わる選択肢。

「よその卵は使わないよ」
「ここの卵、ほんとに最高だよ」

そんな声が、全国の洋菓子職人から寄せられるのは、
近藤社長が“お菓子の一部”としてこの卵を育ててきたからだ。

「卵を届けるというより、“信頼”を預かっているんです」

商品が売れるということ。
それは、取引先の棚に並ぶことではない。
「この商品じゃなきゃダメなんだ」と、誰かに思ってもらえること。

近藤社長にとっての“成果”とは、
その信頼に、静かに応え続けることなのかもしれない。


“女性だから”を手放したとき、私はようやく経営者になれた

—— 躊躇いを超えて、“腹をくくる”という選択

ビジョンや夢を諦めずに進んできた——
それは経営者としての当然の努力であり、信念でもある。

けれど、近藤社長が語った「一番大変だったこと」は、もっと静かで、深くて、誰にも言えなかった“心の内側”の葛藤だった。

「自分が“女性”で経営者であることに、こだわりすぎていたんです」

パートナーであるご主人と共に経営をしている彼女。
その関係性の中で、どうしても「ここは男性を立てるべきだ」と引いてしまったり、
「自分が出すぎてはいけない」と遠慮したり——
そんな“配慮”が、結果として決断の遅れや、成長の足踏みを招いてしまった

「数年単位で、会社の成長が遅れたと思っています」

本当は気づいていた。
自分が“前に出るべき場面”も、“声を上げるべきタイミング”も。
でも、女性だから、妻だから——
その無意識のブレーキが、自分を、そして会社を小さくしていた。

「でもある時、腹をくくったんです。
女性か男性かではなく、私は“ひとりの事業主”なんだと。
この会社と、この業界を本気で背負っていこうと、決めたんです」

その瞬間、彼女の立ち位置が変わった。
周囲の見え方が変わり、言葉に力が宿り、事業にも風が吹いた。

「性別を超えて、人として、事業主として生きていく。
そう覚悟を決めた時に、ようやく“私の経営”が始まった気がします」

誰もが口にする「ビジョン」や「夢」。
それを語る前に、まず向き合うべきは、自分自身の内なる制限だったのかもしれない。

近藤社長の静かな革命は、他の誰かではなく、
“自分の中にいた、自分の遠慮”との決別から始まったのだ。


「一粒の卵に、未来を託して」

—— そこに込められているのは、味だけではない“まっすぐな信念”

お菓子は、人を笑顔にするもの。
そしてその裏側には、いつも“素材のちから”がある。

卵の色、香り、口どけのなめらかさ——
そのどれもが、職人の想いを形にする大切な要素であり、
近藤社長はそのひとつひとつに“答えのないこだわり”を重ねてきました。

—— 自社の強みに誇りを持ち
—— 食の安全に真摯に向き合い
—— そして、誰よりも「洋菓子の未来」を信じている

一見すると、目立つことのない卵づくり。
けれど、その裏には「誰かの感動を支えたい」という静かな願いが宿っていました。

「この卵じゃなきゃダメなんです」
そう言って店を閉めたパティシエの言葉も、
性別を超えて“経営者として生きる”ことを決めた彼女の覚悟も、
すべては「信じてくれる人のために」という一途な想いに繋がっています。

目立たないけれど、本物だけが持つ強さがある。
そのまなざしと、誠実な歩みは、今日もまた
—— ひと粒の卵から、未来をやさしく照らしているのです。


株式会社Miracle Egg代表取締役 近藤順子さん

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